契約による担保権(4)…転質
質物を受け取った質権者(しちけんしゃ)は、その質物を更に質入れすることができます。これを「転質(てんしち)」といいます。
例えば、AさんがBさんに時価10万円のパソコンを質入れして、Bさんから8万円を借りた後、Bさんが、そのパソコンを更にCさんに質入れして10万円を借りることも、法律上は認められています。
質物を質入れしたAさんに断りを入れてから行うのが筋ですが、無断で行っても、法律上は違法ではありません。
この転質は、例えば、先ほどの例で、AさんがBさんに質入れしたパソコンを、BさんがCさんに転質したところ、Cさんが、そのパソコンを落として壊してしまった場合で考えてみましょう。
Aさんは、Bさんから借りた8万円を返したとしても、10万円のパソコンは壊れてしまっています。そうすると、BさんはAさんに、パソコン代金である10万円を弁償しなければならないことになります。
実際には、それぞれの支払は相殺されて、BさんがAさんに2万円を払って許してもらうことになるでしょう。
転質では、他にもさまざまな問題があります。再び、先ほどの例で、AさんがBさんにお金を返す期限が7月末日で、BさんがCさんにお金を返す日が6月末日だったとします。
6月末日に、BさんはCさんに10万円を返すことができませんでした。この場合であっても、Cさんは、転質されたパソコンを処分することができません。
逆に、BさんがCさんにお金を返す日が8月末日の場合はどうでしょうか。今度は、Aさんは、お金を返す期限の日に、Bさんにではなく、Cさんに8万円を返さなければなりません。
転質は、もともとAさんとBさんとの間で設定された質権に基づくものなので、AさんがBさんにお金を返してしまうと元の質権がなくなってしまうと説明されることがありますが、要するに、Bさんが、返してもらったお金を使ってしまうと、Bさんにお金を貸しているCさんが困ってしまうという事態を避けることに目的があるのです。
Cさんが質権を実行できるのは、Aさんが借りた8万円を限度とする点にも注意が必要です。
そして、最後に、先ほどの例では、Aさんが8万円、Bさんが10万円を借りていました。このような場合には、Aさんは、転質されたCさんにお金を返さなければならないのですが、その額は8万円を限度とするということです。
一見、当たり前のようですが、Cさんは同じパソコンを質にとってBさんに10万円を貸しているのですから、本来は、パソコンを処分して、10万円全額を回収したいはずです。