勝手な処分が罪に問われることはないのか
前回「代理権のない自称代理人の行った取引の効果」で取り上げた具体的な事例で、夫であるAさんが、妻Bさんの特有財産であるマンションを、C不動産に売る場合を考えました。
この場合、C不動産との関係では、取引が有効とされる場合もあり得ることも説明しました。さて、このような場合に、夫であるAさんには何かの罪が問えないのでしょうか。
不動産というのは、土地や建物などをいい、動産というのは、不動産以外の物を言うものとされています。もし、AさんとBさんとが赤の他人であれば、AさんがBさんの物を勝手に処分すれば、犯罪が成立します。
例えば、Bさんが持っている指輪を、AさんがCさんに売れば横領罪に当たりますし、Bさんの土地を取り上げて、Cさんに明け渡してしまえば、不動産侵奪罪(ふどうさんしんだつざい)が成立することになります。
親族相盗例は夫婦間だけに限られません。同居している親族や直系血族の間で行われたとしても、やはり罪には問えないのです。
例えば、Bさんのお子さんであるKくんが、Aさんの持っていた高価な宝石を盗んだとします。この場合には、Kくんの年齢如何にかかわらず、Kくんを罪に問うことはできないのです。
また、Bさんの夫の姉であるSさんがBさんと同居していたとします。この場合に、Sさんが同様にBさんの高価な宝石を盗んだとしても、同居の親族による物盗りの犯罪である以上は、Sさんを罪に問うことはできません。
ですから、仮にAさんが、妻Bさんのマンションを勝手にC不動産に売ってしまい、これを取り返すことができなくなってしまったとします。
法律上では、Bさんは、夫婦別産制(第1回「法律が定める夫婦間の財産関係の原則」をご覧ください)の原則により、そのマンションの価格相当額を夫であるBさんに損害賠償請求することでしか、夫Aさんに仕返しをすることができないということになります。