日常の家事としての財産の処分

前回、日常の家事に関する債務の連帯責任について説明しましたが、このことは、夫婦別産制のもとで、夫婦のそれぞれが、それぞれの財産を処分する可能性があることを示しています。簡単に説明します。
画像3-1-4

夫であるAさんは年収1000万円の宝石商で、妻のBさんは結婚を機に仕事を辞めて専業主婦になりました。夫婦が住んでいるマンションは、もともと妻のBさんが住んでいたもので、名義もBさんであり、時価にして3000万円程度の価値があります。

ある日、Aさんは銀行を訪れて、高価な宝石を仕入れるためと称して、住んでいるマンションに抵当権を設定して(抵当権については、第17回「契約による担保権(5)…抵当権とは何か」以下で解説します)、C銀行から3000万円を借り入れました。

Aさんは、事業のための資金としてBさんの財産であるマンションに抵当権を設定しているので、もしAさんが借り入れた3000万円を返せなければ、このマンションは差し押さえられて、夫婦は住むところを失うことになります。

icon-hand-o-up この場合、Aさんは、Bさんの代理人として抵当権を設定したものとみられ、BさんとC銀行との間では有効な抵当権と取り扱われるのです(詳しくは、次回の「代理の意味と効果~社会生活を円滑にするための法技術」で説明します。)

もちろん、Bさんが、マンションに抵当権を設定することに同意していれば、法律上、特に問題にはなりません。しかし、AさんがBさんに内緒で抵当権を設定した場合にはいろいろと問題になるのです。

まず、Bさん名義のマンションは、Bさんの特有財産(特有財産については、第1回「法律が定める夫婦間の財産関係の原則」をご覧ください。)ですから、本来、Aさんがこれを勝手に処分することは許されないはずです。

一方で、日常の家事に関して生じた債務については、夫婦が連帯責任を負うことともされています。

icon-hand-o-up そこで、この二つの考え方にどう折り合いをつけるのかが、裁判の積み重ねでだんだんと明らかになってきました。すなわち、日常家事債務のため、夫婦のいずれかが相手の特有財産を処分することはできます。

けれども、日常家事債務に充てるつもりがなく、取引の相手が処分の意図を知り得たであろう場合には、例外的に処分の効力を認めないとする考え方を基本とするというものです (詳しくは、第6回「代理権のない自称代理人の行った取引の効果」で説明します)。

上の事例でいえば、AさんがBさんのマンションに抵当権を設定したことが日常家事にあたる限りは、抵当権の設定は有効ですが、Aさんが、宝石ではなく株式を買いあさる目的でお金を借り、しかも、Aさんの意図をC銀行がうすうす感づいていたならば、この抵当権設定は認められないということになるのです。

このページの先頭へ