お金をめぐる事件(その4)-誤振込金の引き出し

ある日、Aさんが通帳に記帳すると、株式会社Bから、自分の口座に心当たりのないお金が振り込まれていました。
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icon-exclamation-circle しかし、Aさんはこれに気付かないふりをして全額を引き出し、海外旅行の代金の支払に充て、全額を使ってしまいました。この場合、Aさんには何らかの犯罪が成立するのでしょうか?

この場合、銀行に振り込まれているお金がどのような性質のものであるのかを考える必要があります。

前々回「お金をめぐる事件(その2)-誤って振り込まれたお金で返済」でも触れましたが、法律上、銀行口座に振り込まれたお金は、その口座の名義人の預金となります。

ですから、このお金を引き出したとしても、理論的には、自分のお金を引き出したのと何ら変わりはないことになって、犯罪が成立する余地はないはずです。

icon-arrow-circle-o-right けれども、裁判所は、詐欺罪の成立を認めました(最判平成15年3月12日刑集57巻3号322頁)。その理由はこうです。確かに、誤って振り込まれたお金であっても、その口座の名義人の預金となります。

しかし、誤って振り込んだことに気付いた場合には、振込を依頼した人は、銀行に申し出て、振込前の状態に戻してもらう(これを「組戻し(くみもどし)」といいます)ことができます。

従って、心当たりのない振込に気付いた場合には、同様に、振り込まれたお金を、振込を依頼した人に返すよう銀行に申し出なければなりません。

こうした申出をせずに、黙ってお金を引き出すということは、そのお金が、あたかも自分のお金であるかのように銀行の窓口の担当者をだましてお金を受け取ることになるため、詐欺罪に当たるというのです。

この事例では、窓口での手続だったため、詐欺罪という犯罪に当たるとされましたが、仮に、銀行ATMを使用して引き出した場合には、同様の論理を貫けば、窃盗罪が成立することになるでしょう。

icon-exclamation-circle しかし、この判例は、法律学者の間では、かなり多くの批判を浴びています。

それは、普通の商売をやっている人であれば、通帳に記帳された振込額について、振込依頼をした名義に心当たりがあるかどうかなどいちいち確認することなくお金を回すことが少なくないのです。

それなのに、誤振込に気付かないまま詐欺罪や窃盗罪に問われる可能性があり得ることや、刑事事件とするためには、民事事件としても違法でなければならないのに、このケースだと、民事事件としては必ずしも違法ではないにもかかわらず、刑事事件として違法とされることがある点などが挙げられています。

こういった意見は、誤って振り込まれたお金を使い込んでしまうことは確かに悪いことですが、それは、刑事事件に問うまでもなく、お金を返してもらったり、損害賠償の請求によって解決すべき問題ではないかと指摘しています。

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