お金をめぐる事件(その3)-濡れ手で粟

Cさんは、Bさんが所有するビルをタダ同然で借り受けました。このビルはとてもボロかったので、Cさんは、A工務店に頼んでオフィスビルに改修することにしました。

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icon-exclamation-circle ところが、工事が完成して、いざ、ビルのテナントを募集を始めようとした矢先、資金繰りに行き詰ったCさんは夜逃げをしてしまいました。もちろん、A工務店に工事代金の支払もしていません。

店子のCさんが行方をくらましてしまったので、ビルの所有者であるBさんは、そのままオフィスビルの経営を始めることにしました。

さて、工事代金を踏み倒されたA工務店としては、何とか工事代金を回収しないことには、自分の会社だって連鎖倒産しかねません。

けれども、Cさんは行方をくらましてしまっていて探しようもないし、仮に探し出せたとしても、Cさんに払えるお金があるとも思えません。そこで、A工務店は、Bさんに工事代金を払ってくれるよう求めることにしました。

icon-arrow-right 理論的には、この要求は筋が通りません。なぜなら、A工務店に工事を依頼したのはCさんであってBさんではないからです。

確かにBさんはこの建物の家主だし、改修されたオフィスビルを経営して利益を得ています。けれども、そのことと、A工務店が改修工事を請け負ったこととは別の問題です。

このような場合、改修工事の請負契約の当事者は、A工務店とCさんであって、A工務店は、顧客であるCさんの与信管理に責任を負うべきなのです。

だから、Cさんが支払えなくなった工事代金のリスクはA工務店の問題であって、回収できなくなった工事代金を、大家であるBさんに請求する理由はないはずです。

icon-arrow-right ところが、A工務店の訴えを、裁判所は認めました。(モデルとなった判例:平成7年9月19日民集49巻8号2805頁)。

このケースでは、裁判所は、BさんはA工務店の工事の結果、タダでオフィスビルの経営をすることが可能となっている点に注目しました。

A工務店の工事の結果高まった建物の価値を、Bさんが「無償で」得ていると解釈したのです。そして、Bさんは濡れ手で粟の利得を得ているようなもので、工事代金はBさんが支払うべきだと判断したわけです。このような裁判所の考え方には根強い批判もあります。

特に、Bさんは、Cさんに、建物をタダ同然で貸しているのだから、Bさんも一定の負担をしていることに違いはなく、それにもかかわらず、より高額の改修費用を負担させられる結果となったBさんにとっては、たまったものではありません。

しかし、裁判所としては、工務店とビルの所有者という立場や力関係なども勘案して、何とか妥当な落としどころを探った結果、このような判断に至ったのかも知れません。

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